大判例

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福岡高等裁判所 平成8年(ネ)821号・平8年(ネ)807号・平8年(ネ)831号・平8年(ネ)854号・平8年(ネ)832号・平8年(ネ)843号・平8年(ネ)841号 判決

主文

一  原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人らの各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

主文同旨

二  被控訴人ら

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  事案の概要

以下のとおり補正するほかは、原判決六枚目裏七行目から一八枚目表三行目までのとおりであるから、これを引用する。

一  原判決七枚目裏八行目「証券」を「契約」と、同九行目「保険の種類」を「共済名」と、同一〇行目「一一年」を「一二年」とそれぞれ改める。

二  原判決八枚目裏初行「モ○―」を削る。

三  原判決九枚目裏七行目の「証券」を「保険証書記号」と改める。

四  原判決一〇枚目表二行目の「疾病」を削り、同五行目の「証券」を「保険証書記号」と、同裏初行「疾病傷害特約約款」を「簡易生命保険約款(平成三年郵政省告示第二一四号による廃止前のもの。以下同じ。)一六〇条及び疾病傷害特約約款(平成五年郵政省告示第五三号による廃止前のもの。以下同じ。)」と、同三行目「死亡したときに」を「(ただし、簡易生命保険約款においては、被害の日から九〇日以内に)死亡したときに、それぞれ傷害特約及び」とそれぞれ改める。

五  原判決一一枚目裏初行ないし同二行目「遭遇し」を「よって身体に傷害を被り」と改める。

六  原判決一二枚目表四行目「一項には」を「一項は」と改め、同行目「被告」の次に「の本店」を加え、同末行「二六条には」を「二六条は」と、同裏八行目「八条には」を「八条は」とそれぞれ改め、同行目「被告」の次に「の本社」を加える。

七  原判決一三枚目表二行目「二四条には」を「二四条は」と改め、同五行目「乙ホ六」の次に「、一六の一、二」を、同一〇行目「となる。)」の次に「、剰余金及び未経過保険料還付金から、借入金及び利息を相殺控除した残額合計七八三万二一六六円」をそれぞれ加え、同末行「各」を「本件第四保険契約については傷害特約、本件第五保険契約については」と、同裏初行「三二条には」を「三二条は」と、同六行目「一項には」を「一項は」とそれぞれ改める。

八  原判決一四枚目表末行「普通」の次に「保険」を加える。

九  原判決一五枚目表一〇行目「その」から同末行末尾までを削り、同裏二行目の次に改行して次のとおり加える。

「3 太郎の死亡が自殺によるものでないとした場合、控訴人国が特約に基づき支払うべき死亡保険金の額はいくらか。」

一〇  原判決一五枚目裏五行目冒頭に「(一) 」を加える。

一一  原判決一六枚目表九行目の次に改行して次のとおり加える。

「(二) 保険の利用者は、今日の複雑な生活環境の下で自己の不注意が保険によってカバーされることを期待しているのであるから、重過失の範囲は厳格に解するのが相当であり、過失行為の態様からみて、保険金を支払うことが公序良俗に反するような場合が重過失に当たるものというべきである。しかるに、太郎は、本件事故現場において、眼下に広がる海を撮影しようとして、安全を図り、腹這いになって手を突き出すようにして写真を撮ろうとして、右のような事故に遭遇したものであるところ、眼下の光景を写真に撮ろうとすること自体、誰もがなす社会的に容認された行為であるから、このことにより死亡したことをもって、保険金を支払うことが公序良俗に反するとはいうことはできない。したがって、太郎の死亡について同人に重過失はない。

(三) 太郎が、死亡までに、国から、特約保険金中の入院保険金として、本件第四保険契約に基づき合計六四万六五〇〇円、本件第五保険契約に基づき合計六四六万五〇〇〇円の各支払を受けたことは認める。」

一二  原判決一六枚目裏二行目末尾に「仮に太郎の死亡が自殺であることが明白でないとしても、同人の転落は、本件第一保険契約に係る傷害特約一条、普通保険約款付則1により不慮の事故から除外されている「不慮か故意かの決定されない自然の場所からの墜落」に該当するから、不慮の事故には当たらない。」を加え、同三行目の「自殺」から同四行目「よるもので」までを「そうでないとしても、重大な過失とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような著しい注意欠如の状態をいうところ、太郎は、本件現場において、再三にわたり大城から崖縁に近寄り過ぎないよう注意を受けていたにもかかわらず、同人の隙をみて崖縁這い寄って行き、これに気が付いた大城からズボンの裏側を掴まれて制止されたにもかかわらず、なおもズボンが脱げるほどの勢いで前進を続けて崖から身を乗り出し、同人から右足を掴まえられていたにもかかわらず、あえて崖にしがみついて助かろうともせずに墜落したものであるから、太郎の行為が重過失に当たることは明らかであって」と、同末行「転落」から一七枚目表初行「突き出して」までを「災害保障特約一六条一項一号にいう重過失とは、注意義務違反の程度が顕著であるもの、すなわち、わずかの注意さえ払えば違法、有害な結果を予見することができたのに、右注意を怠ったために右結果を予見できなかった場合をいうところ、同人は、転落すれば死亡を免れない高所の崖縁まで這って行き、単にバランスを崩しただけでも足首を掴んでいる大城をも引きずって転落するような危険な位置で身を乗り出して」とそれぞれ改める。

一三  原判決一七枚目表五行目「(1)」、同七行目から同一〇行目までをそれぞれ削り、同裏三行目「疾病」から同五行目末尾までを次のとおり改める。

「本件第四保険契約に付された傷害特約及び本件第五保険契約に付された疾病傷害特約については、疾病傷害特約約款が適用され、同約款一七条一項、二項により、右各特約による特約保険金は死亡保険金、傷害保険金、入院保険金、手術保険金とし、その支払額は、通算して、特約保険金額をもってその限度とする旨定められているところ、太郎死亡までに、本件第四保険契約に基づく入院保険金として合計六四万五〇〇〇円が、支払われている。したがって、仮に太郎の死亡が自殺によるものではなく、不慮の事故によるものであるとしても、控訴人国が右傷害特約及び疾病傷害特約に基づいて支払うべき死亡保険金額は、それぞれその特約保険金から既払の入院保険金を控除した額すなわち本件第四保険契約については三五万三五〇〇円、本件第五保険契約については三五三万五〇〇〇円に限られる。」

一四  原判決一七枚目裏九行目「保険金を」を「保険金の」と改める。

第三  争点に対する判断

一  当裁判所は、被控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり補正するほかは、原判決一八枚目表五行目から二九枚目表四行目までのとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一八枚目表五行目「、その立証責任の所在」を削り、同裏六行目「本件第四・」を「平成四年法律第五四号による改正前の簡易生命保険法六条一項、本件第四保険契約に関する簡易生命保険約款一六〇条、本件」と、同七行目「不慮の事故等」を「不慮の事故又は第三者の加害行為」とそれぞれ改める。

2  原判決一九枚目表二行目「立場から」から同四行目「ことをも」までを「意思に基づかないことを」と改め、同一〇行目から同裏三行目までを削る。

3  原判決二一枚目裏初行「花子、」の次に「原審における太郎相続財産管理人吉田純一に対する」を加える。

4  原判決二二枚目表初行「花子、」の次に「原審における太郎相続財産管理人吉田純一に対する調査嘱託、当審における株式会社アプラス、株式会社福岡カード、三洋信販株式会社福岡管理センター、株式会社第一コーポレーション福岡営業所、国際信販株式会社、ふくぎん保証株式会社、アコム株式会社、日新信販株式会社、福岡証券信用株式会社、株式会社アプレック、株式会社親和銀行福岡支店、春日クレジット二日市支店、株式会社福岡銀行太宰府支店に対する各」を加え、同三行目「一三名」を「株式会社アプラス、株式会社福岡カード、三洋信販株式会社、株式会社第一コーポレーション、国際信販株式会社、ふくぎん保証株式会社、アコム株式会社、日新信販株式会社、福岡証券信用株式会社、株式会社アプレック、株式会社親和銀行、春日クレジット、年金福祉事業団及び馬田の一四名」と、同四行目「一三名」から同五行目「思われる。)」までを「一四名の貸主のうち、アプラスとの関係では、平成三年二月二七日及び同年八月二日の、国際信販」と、同六行目「に、株式会社」を「の、」と、同七行目「五日に」を「五日の各経過により」と、同八行目「していた」から同一〇行目末尾までを「していたほか、福岡カード、ふくぎん保証、アプラス、親和銀行(同銀行に対する債務については、昭和六〇年二月二〇日に、貸金返還請求訴訟の請求認容判決が確定していた。)、アコム及びアプレックからも支払の督促を受けており、アプラスからの申立てにより、平成三年一一月一日付けで福岡簡易裁判所から支払命令を受けていた。なお、以上のうち、アプラス、三洋信販、国際信販、アコム、日新信販、アプレック、春日クレジットからの借入金は、いずれも利率が利息制限法を超えるものであった。」とそれぞれ改める。

5  原判決二四枚目裏三行目「証人大城、検証」を「原審及び当審証人大城、当審証人松井務、菅原新也、原審検証、当審における那覇スカイプラザホテルに対する調査嘱託」と、同六行目「九時」を「一一時」とそれぞれ改める。

6  原判決二五枚目表九行目「零時」を「一時三〇分過ぎ」と改める。

7  原判決二六枚目裏一〇行目「同人」から二七枚目表二行目「いったので」までを「、とっさに、同人の足の上に四つん這いで覆い被さるような格好で同人のズボンの右膝の裏あたりを掴んだが、同人はそのまま進行したため、ズボンが脱げた。同人は止まろうともせず、更に崖縁へ向かったので、大城は、夢中で太郎の右足首を右手で掴んだが、同人は両手でかき込むようにして、大城を引きずって進行を続け、ついには、右足を大城に掴まれたまま崖から下へ完全に宙づりとなり、大城も、胴体が約半分崖縁の外へ出た状態となり、左手で岩を掴んで自己と太郎の体重を支え、同人と共に落下しそうになった。大城は」と改める。

8  原判決二七枚目表六行目ないし同七行目「大城に対して抵抗する」を「進行を緩める」と改める。

9  原判決二八枚目裏初行ないし三行目、同行目「「この件で」から同七行目「述べ、」までをそれぞれ削る。

10  原判決二九枚目表四行目の次に改行して次のとおり加える。

「3 前記争いのない事実及び右認定事実を総合して、太郎の死亡が自殺によるものであるか否かについて検討する。

(一) 太郎は、死亡当時、元本のみで約六〇〇〇万円の債務を負担しており、自らの資産のみではこれを返済することが到底不可能な状況にあった。右負債のうち、一部は高利金融業者からの借入れであり、資金的に相当逼迫した状況の下で借入れがなされたことがうかがわれ、一部については期限の利益を喪失し、そうでないものについても、債権者の多くから支払の督促を受けていた。このような事情は、自殺を決意する動機に十分なり得るものというべきである。

(二) 太郎は、四つん這いになって崖縁へ進行を始めた際、大城からズボンを掴まれてこれが脱げたにもかかわらず、進行を緩めるとか、同人をとがめるような言動を一切せず、同人から更に右足首を掴まれて制止されても、これを無視し、同人を引きずって崖の外へ向かって進行している。このような行動は、崖下の写真を撮影しようとする者の動きとしてはあまりにも不自然であり、自ら死を決意した行動としか説明できないものである。なお、太郎は、右のように崖縁へ進行を始める直前には別紙見取図B点に腰を下ろしていたのであるから、大城が目を離した隙に自ら崖下へ飛び込もうとする場合、四つん這いで進行することは十分あり得るというべきであり、このような場合に、自殺を決意した者が立ち上がった姿勢から飛び込まなかったからといって、経験則上不自然ということはできない。

(三) 使い捨てカメラは、崖下の太郎の死体の側で発見されているが、本件事故時に露光して撮影されたと考えられる甲一の一三の写真は、被写体が大きくぶれている。そして、甲一六の一、二(斉藤光範作成の鑑定書)は、この被写体は崖下の岩場及び海であり、右使い捨てカメラのシャッターが何かに押される等して偶然に切れることはなく、写真のブレは、太郎が崖縁から外ヘカメラを持った手を差し出して海を撮影しようとしてシャッターを切った際に、何らかの理由によって身体が動いたことにより生じたものであるとする。しかし、右の被写体が岩場及び海であるとまでは断定できないし、乙へ三によれば、使い捨てカメラを高所から落下させた場合、その衝突の衝撃で偶然シャッターが切れることがあることが認められ、しかも、その場合のブレが、右甲一の一三のブレによく似ていることにも照らすと、甲一の一三の写真は、仮に太郎が当時カメラを所持していたとしても、これが同人と共に落下して、岩場に衝突した際に偶然シャッターが切れて撮影された可能性が多分にあるといえるから、右甲一六の一、二の意見は採用できない。また、右カメラは、太郎が崖縁へ向かって進行を始めた際に大城の手中にあって、同人が太郎を制止しようとした混乱の中で崖下へ落下したということも十分あり得るところである。したがって、右のカメラの発見位置から、直ちに、太郎がカメラを所持して崖下を撮影しようとしていたと推認することはできない。

(四) 太郎は、出発の前日、土産を黒砂糖にすることを被控訴人花子と相談し、その予定どおり、旅行中に三個の黒砂糖を購入し、死亡の前日には被控訴人花子に電話をかけ、帰宅後の食事、風呂の用意を頼んでいるが、このことは、太郎が自殺する意思を有していなかったことに一応符合するということができる。しかし、自殺者のすべてが一貫した意思で自殺を敢行するとは限らないのであって、その内心において逡巡を重ねた末に自殺に至る場合も多くあるものであるから、太郎が、右のように、旅行先から無事帰宅することを前提としたような言動をとっていたからといって、必ずしも、同人に自殺の意思がなかったとまで断定することはできない。

(五)  以上みてきたところによると、保険契約の締結時期等に特段不審な点が認められないこと(沖縄旅行の直前に締結した本件第六保険契約及び本件補償契約は、乙野がその手続をしたものであって、太郎はその存在を知らなかったものと推認され、その余の保険契約等は昭和四八年から平成三年までの間に順次締結されたものであって、死亡直前の短期間に集中して締結されたものではないこと)を考慮に入れても、なお、太郎の落下による死亡は、自殺によるものと認められる。」

二  右によれば、被控訴人らの各請求はいずれも棄却すべきであり、原判決中控訴人ら敗訴部分は不当であるからこれを取り消し、被控訴人らの各請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六五条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山口忍 裁判官西謙二 裁判官原啓一郎)

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